世界で一番大切なもの

振り返っても、顔を上げることが出来ずに俯いていた。



涙だけがポロポロと落ちてくる。



そんなあたしの方にゆっくり桔平の手が伸びて来て、



その細長くキレイな指が、あたしの頬を伝う涙をそっと掬った。



「泣くなよ」



「……ッ」



ゆっくり顔を上げると



2年ぶりに見た



愛しい、桔平の顔。



ねぇ、桔平。



また少し背が伸びた?



変わらないね、



そうやって片方の口の端だけを上げて笑うとこ。



あたしの、大好きな笑い方。



「ただいま、葵」



迎え入れたら、あたしはもうダメかもしれない。



それでも、あたしは桔平の顔を見てしまった。



もう、戻れない。