世界で一番大切なもの








「あれ?うちのクラスの前、すごい人だかりー」



伊東くんが指差した方向を見ると、確かに人だかり。



しかも、女の子の割合が多い。



嫌な、予感がする。



あたしは2、3歩後ろに下がった後



くるっと回って、元来た道を引き戻ろうとした。



「葵ちゃん?」



伊東くんにガシッと腕を掴まれる。



「伊東くんッ…放して…早く…」



「葵っ!」



瞬間、体がビクッと揺れた。



「葵」



振り向けない、



「葵」



声がだんだん近付いてくるのが分かる。



「葵」



振り向いたら、



「葵、」



抜けられなくなる。



「こっち向いてよ、葵」



ねえ、桔平。



分かっていてやってるの?



あたしがあなたの声には逆らえないこと。



ずるいよ…。