世界で一番大切なもの

あたしはそっと、目を伏せた。



決めたはずだったのに、



やっぱりあたしの決意はぐらついてる。



きっと、今桔平に会ったら、あたしは……



「葵ちゃーん?」



「わっ」



ハッと目を開けると、伊東くんの顔がすぐ前にあった。



「なんか、6限終わったっぽいよー」



戻ろー、と伊東くんがドアの方へと歩いて行く。



あたしもゆっくり立上がり、同じようにドアへ向かう。



「……なんか分かんないけどー、」



「?」



伊東くんが上半身だけ振り向く。



「元気出してね」



「!」



「葵ちゃんが元気ないと、心配になるからさ」



腕を伸ばしてあたしの頭をクシャクシャッと撫でる。



「話ならいつでも聞くからさー」



そう言って笑った伊東くんの笑顔は、あたしの心を少し、軽くしてくれた。



「…ありがとう」



伊東くんはにっこり微笑み、また歩き始めた。