グラスに入った”あたしの”
ドリンクを一口飲んで、
少し不安そうに瞳を揺らす彼に
笑顔を向けた。
「 すごく美味しいです 」
「 本当ですか? 」
「 さすが楓くん、あたしの
好みが分かってますね 」
レモネードのときからそう、だと
言おうとして口を閉じた。
レモネードは珈琲の飲めない舞さんの
ために作ったものなんだ、と。
こんなこと言ったって仕方ない。
困らせるだけで、気を遣わせるだけだ。
「 菜緒さん? 」
「 楓くんは・・・相変わらず
珈琲が好きなんですね 」
一ヶ月前と何も変わらない。
店内も、そして彼の飲む珈琲も。
苦手だった匂いもすっかり好きになって、
カウンターに置かれた珈琲を見て
ふっ、と笑いが零れた。

