Black Coffee.






”まさか”と顔を上げれば
あたしが落とした箱を
汚れを掃って差し出された。





「 ・・・楓くん 」


「 久しぶりですね、菜緒さん 」





会わなくなって一ヶ月。
少し長かった彼の髪は
短くなっていた。





それでも綺麗な栗色は
相変わらずで、そして
この笑顔も、相変わらず。





「 降りましょう、菜緒さん。
  辛いなら少し休んでください 」


「 や、・・・大丈夫、です 」


「 顔色も悪いですし、寄って行ってください 」





もしかして、前に泣いたこと
何とも思ってない・・・?





顔を背ければ腕を掴まれて
電車から降りたあたし達は
同じ方向へと歩き始めていた。