だけど私はあの日から、
本当は涼に触れられるのが怖い。
というか、涼が近くに寄るだけで、体が勝手に強張って身構えてしまう。
またキスされるんじゃないかってそう思ったら、
涼が涼じゃなくなったみたいで…
…ううん、違う。
きっと私がおかしいんだ。
私が、私じゃなくなったみたい。
優兄ちゃんにだって、こんな気持ちになったことないのに…。
だけどあれ以来、涼は私に触れようとしない。
キスどころか、ギュッて抱きしめることだってない。
“好き”だとも言わない。
…だから私はまた、わからなくなってしまったんだ。
涼の本当の気持ちも、私自身の気持ちも。
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「ただいま〜」
「おかえりー咲」
その夜、仕事が終わり家に帰ると、お姉ちゃんが出迎えてくれた。
お母さんはまだ帰っていなく、お姉ちゃんはキッチンでご飯の準備をしていた。
「あれ、お姉ちゃん帰ってたの?」
「うん、今日明日と優ちゃんが急に名古屋に出張になっちゃって。
一人じゃ寂しいから、泊まりにきちゃった。
もうすぐご飯できるからねぇ」
優兄ちゃんと結婚して、お姉ちゃんは優兄ちゃんと暮らし始めた。
保育士の仕事は妊娠6ヶ月に入るまで続けるようで、妊婦なのに人の子どもの面倒をみている。
…優兄ちゃんと結婚してからか、
それとも子どもが出来たからなのか、最近のお姉ちゃんは前より少し変わった気がする。
おっちょこちょいなのは相変わらずだけど、
雰囲気というか…
前よりだいぶ“姉”らしいというか、“母親”らしくなってきた。
守る存在が出来ると、人は変わるものなのかもしれない。

