日曜日。
私は涼に言われた通り早起きした。
前の日の夜、なんか妙に緊張してしまってなかなか寝付けなかったけど、
それでも朝、わりとすんなり起きれた。
「いつも昼過ぎまで寝てるのに、恋のパワーかしらね」
お母さんが珍しいモノを見るような目で、そう言った。
そんなじゃないもん。
今度こそ起きなかったら、涼に怒鳴られるのが嫌だからだもん。
そう自分に言い聞かせた。
「あ、涼。おはよう」
玄関を出た所で、ちょうど同じく出て来た涼と鉢合わせた。
涼は一瞬、目をパチクリさせる。
「なに?ちゃんと起きたんだから文句ないでしょ?」
「ぜってー寝てると思った。エライじゃん」
そう言って涼がふっと笑って、私の頭をくしゃっと撫でた。
あまり見せない涼の笑顔に、不覚にもドキドキする。
「…さっ、行こうよ。映画って何観るつもりなの?」
「あぁ、これ」
涼が財布から、前売り券を2枚取り出した。
「これ、名探偵コバンの?!」
「母さんが知り合いから貰ったらしくて」
それは、私が小学生の頃から放送されているアニメの、最新映画の前売り券だった。
小さな男の子が、大人並の頭脳で事件を解決していく、アクション有り、感動有りのアニメで、
私も涼も小さい頃に、一緒になってテレビの前にかじりついたものだ。
さすがに今はアニメを見ることはなくなったけど、映画は毎年チェックしている。
「咲、このシリーズ好きだろ?」
「う、うん!でも良いの?涼、嫌じゃない?」
「いいよ、俺も久々に観たいし」
歩き出した涼の背中を、私は慌てて追いかけた。

