「大丈夫、咲にもその内分かるわよ。
涼ちゃん、私よりも咲のことよく見てるし、咲とよく似てるとこもあるから、
お互いのこと、よく分かるんじゃない?」
「えぇ?そんなことないよ」
私は驚いて首を横に振った。
私と涼は、似てなんかいない。
私は涼みたいに、あんなストレートに自分の気持ちを言うことは出来ないし、
触れたくても、自分から触れることだって出来ない…。
だって、涼に甘えるなんて出来ないよ。
5歳も年下で、まだ大学生になったばかりの涼に…
私の方が、しっかりしなくちゃいけないのに…
…だってきっと、涼だって本当は甘えたいはずだから。
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「あれ、涼」
金曜日。
仕事を終えて会社を出ると、涼が居た。
私は慌てて涼に駆け寄る。
「どうしたの?大学は?」
「…今日は講義、午前中だけだったから。
こっちに用があったから、ついでに一緒に帰ろうと思って」
涼はそう、言い訳するように言った。
大学生になってからは、大学が忙しいのか会社まで私を迎えに来てくれることもほとんどなくなった。
私より帰りが遅い時もあるし、私よりも朝早く出るときもある。
高校生の時よりも、生活のリズムが私と涼とでは全然違うせいか、お向かい同士とはいえ、前みたいに顔を合わせることも少なくなった。
だからこの前、お互い休みの日曜日に出掛けようって誘われていたのに、私ってば…
「どう?大学はもう慣れた?」
「まぁな」
「勉強とか大変じゃない?サークルとかあるんでしょ。何かやるの?」
「今のとこ考えてない」
私たちは並んで歩き出した。
触れてもいないのに、すぐ横にいる涼の気配が私の心臓を早くさせる。
私はそれを紛らわすために必死で話題を探した。
「そういえば、お姉ちゃん、男の子だって聞いた?」
「聞いた。兄貴からソッコー電話かかってきてうざかった」
「あはは、優兄ちゃんらしい。よっぽど嬉しかったんだね」
「生まれてくる子どもが可哀想だ。あんなのが父親で」
「ひどい、優兄ちゃんはきっと良いパパになるよ」
「お前……」
涼の言葉が途切れる。
私は思わず、涼の顔を見上げた。

