「大丈夫か、咲」

 伊達メガネの中から、真剣な瞳があたしを射抜いた。その顔が強張っていることも、怒りに眉が寄せられていることも、全ては静かないつもの表情からかけ離れていたけれど――間違いない、待ち焦がれていた雅浩その人だった。

「う、うん――」

 でも、と言いかけた言葉は、雅浩がまた前を向いたことで遮られる。

「いってえ……」と頬を押さえている顔がゆがんでいることで、雅浩が彼を殴ったのだとようやくわかった。

「何すんだよ! いきなり――」

 怒りもあらわにそう叫ぶも、周囲の目線はまるで自業自得といわんばかりに冷たくて。あたしは、やはりさっきの想像図が行きかう人々全員に共通した見方なんだと気づいたのだ。もちろん、雅浩も含めて――。

「何するんだって? 自分の彼女に手出そうとした不埒なホストを殴ったんだよ。そんなこと、いちいち説明しなくてもわかるだろうが」

 あの優しい親友の彼氏とはまた違う意味での冷たい態度。その奥に燃えている怒りは道端に座り込んでいた彼にも通じたらしい。

 一瞬ひるんだ顔をしたものの、申し訳なさそうなあたしの目線に気づいたのか、口をつぐんでくれた。

「行くぞ、咲」

 相手を黙らせて気が済んだのか、そのまま強く腕を引いてくる雅浩。いつもとは違う強引さは、まだ彼の怒りが収まっていないことを教えてくれたから。

「うっ、うん」

 あわてて返事して、少し先を歩く背中に付いて行く。ゴメンナサイ、とこっそり両手を合わせて謝ったら、何が何だかわからないような顔で、それでも茶髪頭をがしがし掻いて笑ってくれる。

 外見で損をしてるけど、実はとっても優しくて友達想いな人。その彼が――本当はかをるちゃんを通じての友人なんだ、なんて今更雅浩には言えなかった。