思わず両手で口を押さえ、息を呑んでしまった私に、「お気に召しましたか? お姫様」と深い低音が訊ねる。
普通のスーツのはずなのに、澄ました態度で部屋に案内する態度まで合わせると、まるで物語に出てくる王子様だ。大人で、余裕たっぷりなのに――子供の心も失わない、私だけの――。
「これを見せたかったんだ」
窓際に立った静さんが、驚きに目を見張ったままの私に満足げな言葉。カーテンを開けた窓の外からは、今にも湖に沈もうとしている大きな夕日。雲に一部隠されて、うまく湖面に反射した影まで含めて形を成しているそれは――赤い、大きなハート型の太陽だった。
その燃えるような夕焼けの光が薄暗い部屋の中に差し込んで、ちょうど中央に置かれたグラスの数々。シャンパンタワーというのだと、配達に行った時亀元さんが教えてくれたものと同じそれは、私の目の高さくらいまであった。
「一度やってみたいって言ってただろう? だからと言って――まさかお前にホストクラブを薦めるわけにはいかんからな」
そう言って微笑む静さんは、そばのテーブルに置かれていたシャンパンのボトルを私に差し出す。
「大丈夫、ノンアルコールにしてある。酔っ払って寝込まれちゃ、楽しみが台無しだからな」なんてちゃっかり付け加えて、また私をどぎまぎさせた静さんの浅黒い手の平。
震える私の手を取って、一緒にてっぺんのグラスに注ぎ始めたピンクの液体は、しゅわしゅわと気持ちのいい音を立てながら下に落ちていく。ちゃんと全部のグラスに液体が揺れるまで、何本もボトルを開けた静さんを見上げて、私は笑った。
「こんなに……全部飲めませんよ?」
「いいんだよ。残りはバスルームで使うから」
「バスルーム?」
「シャンパン風呂。肌にもいいんだぞ?」
もちろん、一緒に入れば、の話だが――とまで耳元で囁かれてしまって、私はもはや倒れる一歩手前。
けれどまだサプライズは終わらずに、案内されたもう一つの部屋に用意されていた食卓――正確には、その上に置かれていた豪華なフランス料理のフルコースに言葉も出ない。
スープやお肉からも美味しそうな湯気が立っていて、それが今出来上がったばかりのものだと語っている。
普通のスーツのはずなのに、澄ました態度で部屋に案内する態度まで合わせると、まるで物語に出てくる王子様だ。大人で、余裕たっぷりなのに――子供の心も失わない、私だけの――。
「これを見せたかったんだ」
窓際に立った静さんが、驚きに目を見張ったままの私に満足げな言葉。カーテンを開けた窓の外からは、今にも湖に沈もうとしている大きな夕日。雲に一部隠されて、うまく湖面に反射した影まで含めて形を成しているそれは――赤い、大きなハート型の太陽だった。
その燃えるような夕焼けの光が薄暗い部屋の中に差し込んで、ちょうど中央に置かれたグラスの数々。シャンパンタワーというのだと、配達に行った時亀元さんが教えてくれたものと同じそれは、私の目の高さくらいまであった。
「一度やってみたいって言ってただろう? だからと言って――まさかお前にホストクラブを薦めるわけにはいかんからな」
そう言って微笑む静さんは、そばのテーブルに置かれていたシャンパンのボトルを私に差し出す。
「大丈夫、ノンアルコールにしてある。酔っ払って寝込まれちゃ、楽しみが台無しだからな」なんてちゃっかり付け加えて、また私をどぎまぎさせた静さんの浅黒い手の平。
震える私の手を取って、一緒にてっぺんのグラスに注ぎ始めたピンクの液体は、しゅわしゅわと気持ちのいい音を立てながら下に落ちていく。ちゃんと全部のグラスに液体が揺れるまで、何本もボトルを開けた静さんを見上げて、私は笑った。
「こんなに……全部飲めませんよ?」
「いいんだよ。残りはバスルームで使うから」
「バスルーム?」
「シャンパン風呂。肌にもいいんだぞ?」
もちろん、一緒に入れば、の話だが――とまで耳元で囁かれてしまって、私はもはや倒れる一歩手前。
けれどまだサプライズは終わらずに、案内されたもう一つの部屋に用意されていた食卓――正確には、その上に置かれていた豪華なフランス料理のフルコースに言葉も出ない。
スープやお肉からも美味しそうな湯気が立っていて、それが今出来上がったばかりのものだと語っている。

