抹茶な風に誘われて。~番外編集~

「そろそろタイムリミットかな。もともと急ぐつもりでここまで来たんだ。ほら、早く乗れ」

「あ、はい――」

 急ぐって何だろう、と疑問が回り始めた頭は、乗り込む前に見えた人影を認識して思考を止めた。人だかりができてしまっている校門から、ちょうど出てきた背の高い男の子と目が合ったのだ。

「あ……」

 遠くて表情まではわからないけれど、さっき非常階段で目に焼きついてしまった悲しそうな微笑が思い浮かぶ。ついもらしてしまった声に気づいた静さんが、ドアを閉めようとしていた手を止めた。

「何だ、知り合いか?」

「いっ、いえ、別に――」

 なんでもないです――俯いて答えた言葉に納得したのか、少しだけ動作を止めていた静さんがバタンと助手席のドアを閉じた。

 そのまま運転席に回って乗り込んできた静さんが、スーツのジャケットを脱いで私に手渡す。持っておいてほしいという意味かとジャケットを畳もうかとした私に、静さんがついでのように言ったのだ。

「邪魔じゃなければ、膝に載せてろ。あまりヒーターをきつくするのは好きじゃないんだ」

 車内は十分暖かいから、一瞬きょとんとしてしまう。それでも言われたとおりジャケットを膝に載せて、なんとなく膝との隙間に両手を入れていたら、冷えていた手がじんわり温まってきた。

 ――もしかして、このために?

 水を触ることも多いし、お花の世話でどうしても手が荒れてしまうのは一年中なのだけれど、冬は特に手足の指先まで冷たくなってしまいがちなのは体質で。

 ちゃんとそれを知っていてくれる静さんの優しさに、心までほんわか温かくなった。