抹茶な風に誘われて。~番外編集~

「あーあ、いやんなるくらいオアツイよねえ。一応ここ通学路なんだからさ、イチャつくのはその立派な車に乗って、どこへでもデートしながらにしたほうがいいんじゃない? 静先生」

 呆れ顔でためいきをついてみせたのは、耳からイヤホンを外し、聞いていたらしい音楽を止めた優月ちゃんだった。

「何だ、お前か。アドバイスは感謝するが、お前に先生呼ばわりされる筋合いはないんだが」

「はいはい。先生には程遠い肉食獣さんですもんねえー。かをるちゃん、壊れないように気をつけてね!」

 べえっと静さんに向かって舌を出してから、一転したにこやかな顔を私に向ける。優月ちゃんの言葉は意味がよくわからないことが多いから、何と答えていいのか困ってしまう。

 けれどそんな私の反応さえ見越していたかのように、優月ちゃんは暖かそうな手袋をした片手をひらひらさせて、お別れの挨拶をする。

「じゃあね。お二人さんがおあつーいデートを楽しんでる間に、あたしはせいぜいチョコの叩き売りでもしてくるわ。一人でイベント過ごすくらいなら、せめてバイト代かせいで好きなものでも買ったほうがましだしね」

「建設的な意見だ。いい傾向だな」

 肩をすくめ、少しだけ意地の悪い微笑みを頬にのせる静さん。おろおろする私に、慣れっこだというように優月ちゃんは笑った。

「ほら、早く乗れば? いくら白旗上げた負け犬でも、そろそろやきもきして下りてきそうな顔してるよ?」

 言って、最後に指差されたのは校舎の窓。一階の隅――職員室のあるそこから、担任の美作先生と、学年主任の木下先生がこちらを見ているのがわかった。

「せ、静さん――」

 何かお咎めでもあったら、と心配になって見上げた私の頭を大きな手の平で撫でて、静さんはグレーの瞳を細める。そのまま平然と笑顔を浮かべて、軽く片手を上げて先生たちに挨拶までしてしまう余裕に、なんだかおかしくなってしまった。