抹茶な風に誘われて。~番外編集~

 着物姿ばかり見ているから、なんだか不思議な気がする。普段と変わらない魅力的な微笑が、なぜか少しだけ色気を帯びて見えるような――。

 ――やだ、私ったら男の人にそんな風に感じるなんて。

 自分で自分を戒めて、赤くなる頬を押さえたら、静さんが私の手を取った。

「――冷たいな」

 ぎゅっと握られた手の感触と、見つめてくるグレーの瞳にドキリとする。包み込むような眼差しには、いつだって心ごと吸い寄せられてしまう。

「公衆の面前、ってのも嫌いじゃないが……できたら二人きりになってからにしないか? ギャラリーも集まってるし、お前だってこの注目の中でキスされるのは嫌だろう?」

 言われて初めて、かなり近くで見つめあってしまっていたことに気づく。からかうように片手で頬を撫でた静さんの仕草で、周りの女の子たちが悲鳴を上げるのが聞こえた。

「キッ、キスだなんてそんな……」

 止めようもなく耳まで赤くなってしまう私。でもすぐにニヤリと笑った静さんの瞳が、いたずらっぽい色を浮かべていることにも気づいてしまった。

「静さんっ! ま、またからかって……っ」

「ん? からかうなんてとんでもない。この俺が可愛い婚約者をからかうなんて非道な男に見えるのか? 見えるなんてひどいことを言うなら、仕方ない。十分反省するように、お仕置きしてやらんとな――」

「せ、静さんったら――もうやめてください!」

 耐えられずに顔を背けて叫んだら、静さんが楽しそうに笑い声を上げる。まだまだ続きそうだった不毛な会話は、突然後ろから背中を突付かれたことで遮られた。