抹茶な風に誘われて。~番外編集~

「いいよねー、バレンタインデート。あたしなんかバイトだよお? しかもさ、あの万年ダメダメホストの店の近く。先に知ってりゃ、面接も行かなかったのにー。バイト代結構くれるからさ、バレンタインに一人、なんて恥をしのんで応募したんだよー?」

 ぷう、と膨れた頬で訴えてくる優月ちゃんに、私は苦笑いする。それから――すごくいいことを思いついた。

「あのね、優月ちゃん……」

 我ながらナイスアイデアだと思った提案は、すごい勢いで拒否されてしまった。けれど横で聞いていた咲ちゃんにうまく説得された優月ちゃんは、ぶつぶつ言いながらもまんざらでもないような顔をしている。

 もしかしたら迷惑かもしれない、と迷っていた私に、咲ちゃんがウインクした。余計なお節介じゃないらしいことが証明されて、私はひそかに微笑んだのだった。




 放課後、急いで校門を出た私は、思いがけない光景に息を呑んだ。

 女の子たちがきゃあきゃあ騒いでいる声と、男の子たちがざわめく声とがごちゃ混ぜになって、ついでに注目の的になっている人物が私に片手をあげたことで一気に辺りは騒然としてしまった。

「せっ……静さん!? どうしたんですか――こんなところで」

 いきなりすぎて、喜びよりも驚きが先に立った私の言葉に、静さんはいつもの微笑で答える。

「迎えに行くって言っただろう?」

「む、迎えに、って――駅に、って言ってませんでしたっけ……?」

 確かに昨夜確認したはずなのに。とうろたえるばかりの私の手から鞄を取り上げ、さっさと乗れ、とばかりに助手席のドアを開けてくれる。

 学校の前まで例の高級車――ハナコさんから借りたのだろうけれど――で迎えに来られては、戸惑うなというほうが無理というものだ。

 それに加えて、いつもの微笑を引き立てる役割を十分承知しているようないでたちは、今日はあの落ち着いた和装ではないことにも驚いていた。

「スーツ、来てるんですね……」