「知ってたからさ――九条さんに彼氏、いや、婚約者だっけ……いること。そんなの全校で噂だし、女子なんか滅茶苦茶カッコいい大人なイケメンだって騒いでたし、俺なんかがかないっこないのはわかってて。でも、伝えずにはいられなかっただけで……」
「八代、くん……」
締め付けられた胸を無意識に押さえたら、俯き加減だった顔を上げ、たくましい肩を逸らして八代くんは言ったのだ。
「ほら、そうやって名前だけでも呼んでくれた。気持ちを告げないままあきらめたら、話すこともできなかっただろ? でもさ――こうして、最初で最後でも話して、俺を見てくれて、それだけでもさ……なんか報われた気がするから」
ありがとう、とお礼まで言われて、私にできたことは精一杯の気持ちを込めて頭を下げるだけ。爽やかに笑って、立ち去っていく後ろ姿を見送るだけ。
じわりと涙が滲みそうになって、そんなの傲慢だって必死で堪えた。あの人の想いを拒否するしかできない自分が、泣くなんておかしいのだから。
だけど――こんなことがあるたびに、神様に感謝したくなる私は、ひどく身勝手なエゴイストなのだろうか。
大好きな人に、自分を大好きだと言ってもらえる。伸ばした手を、しっかりと受け止めてもらえる。それがどれほどに幸せで尊いことなのか、実感するのだから。
「あれー? どっか行ってたの? かをるちゃん」
「授業始まっちゃうよー。どうかした?」
優月ちゃんと咲ちゃんが迎えてくれた教室で、私は笑った。何でもないよ、なんて答えながら思っていたのだ。
――静さんが喜んでくれても、そうじゃなくても、この想いをちゃんと届けよう。
大切で、かけがえのない相手に気持ちを伝えるために。
「八代、くん……」
締め付けられた胸を無意識に押さえたら、俯き加減だった顔を上げ、たくましい肩を逸らして八代くんは言ったのだ。
「ほら、そうやって名前だけでも呼んでくれた。気持ちを告げないままあきらめたら、話すこともできなかっただろ? でもさ――こうして、最初で最後でも話して、俺を見てくれて、それだけでもさ……なんか報われた気がするから」
ありがとう、とお礼まで言われて、私にできたことは精一杯の気持ちを込めて頭を下げるだけ。爽やかに笑って、立ち去っていく後ろ姿を見送るだけ。
じわりと涙が滲みそうになって、そんなの傲慢だって必死で堪えた。あの人の想いを拒否するしかできない自分が、泣くなんておかしいのだから。
だけど――こんなことがあるたびに、神様に感謝したくなる私は、ひどく身勝手なエゴイストなのだろうか。
大好きな人に、自分を大好きだと言ってもらえる。伸ばした手を、しっかりと受け止めてもらえる。それがどれほどに幸せで尊いことなのか、実感するのだから。
「あれー? どっか行ってたの? かをるちゃん」
「授業始まっちゃうよー。どうかした?」
優月ちゃんと咲ちゃんが迎えてくれた教室で、私は笑った。何でもないよ、なんて答えながら思っていたのだ。
――静さんが喜んでくれても、そうじゃなくても、この想いをちゃんと届けよう。
大切で、かけがえのない相手に気持ちを伝えるために。

