懸命に言い聞かせようとしても、苦しいくらいに胸が高鳴る。潤んだ瞳は、必死な眼差しを受け止めるしかできない。もうずっと忘れてた、こんな気持ち――。

「……ある、って言ったら?」

「……えっ!?」

「馬鹿。なんでそんなに驚くのよ」

 照れ隠しにそっぽを向いて、邪魔にしかならない折れたハイヒールを脱いだ。

「ちょっ、ちょっと今日子さんっ! 足、足っ! 寒いし、汚れますよそんな素足で――」

 あわてて追いかけてくる男に、舌を出す。赤いハイヒールをコンビ二のゴミ箱に投げ捨てて、両手を腰に当てて振り返った。

「じゃあ、ガラスの靴でも買ってくれるの?」

「え――?」

 あたしの意味不明な問いかけに、眉を寄せる。まるで少年のような無垢な顔に、あたしは笑った。

 そのままぐいっとネクタイを掴んで、引き寄せる。初めて触れ合った唇は思ったよりも熱くて――本気のキスの味がした。

「帰ってきたら、覚悟してなさいよ。言っとくけど――あとで返品なんて、受け付けないから」

「……今日子さん……っ!」

 一瞬意味を掴みかねて瞬いた瞳が、感極まったように潤む。ガバッと抱きついてこようとする両腕からするりと抜け出て、足元に放り出してあった旅行カバンを指差した。

「続きはお預け。あんたがためらわずにあたしのこと今日子って呼べるようになったら――そしたら少し、考えてやってもいいわよ」

「は、はい――っ! お、お土産買ってきますっ!」

 涙目で、張り切って叫んだ言葉につい肩を落とす。もっとカッコいいこと言えないの? なんて脳裏で悪態をつきながらも、手を振るあたしの頬は緩んでいた。