抹茶な風に誘われて。~番外編集~

「ありがと。後でかをるちゃんに電話しとくわ。じゃね、もう寝るから――」

 あくびをかみ殺して告げると、さっさとドアを閉めようとする。けれど、予想もしなかった行為――綺麗な革靴をドアの隙間に突っ込んで止める――に出た静は、その笑みを少し意地悪なものに変えて続けたのだ。

「――へえ。寝てる暇なんかあるのか?」

 嫌味で、傲慢で、それなのに魅力的。この男の最大の売りは、今でも変わっていないらしい。ほんの少しでもドキッとしてしまった自分が許せなくて、あたしは眉を寄せた。

「どういう意味よ」

「オヤジはオヤジ同士、世間話も得意になったらしい。昔の俺なら係わり合いになりたくもないことに、こうしてついでとはいえ来てやってるんだからな」

「――はあ?」

 ふっと笑った静の浅黒い肌と、グレーの瞳。見るからに純粋な日本人ではない風貌のくせして、日本人特有のはっきりしない物言いをしてきたりする。

 それがわざとであることも、この男が楽しんでいることもわかっているのに、それでも腹を立てられない自分がいた。

 ――これも、昔の弱みってこと?

 自分では大昔に葬ったつもりの過去をほじくり返されないうちに、と口を開く。

「はっきり言いなさいよね、じれったい」

「じゃあ、要点だけ――お前のお得意客、昨日で仕事やめて田舎に引き上げるそうだ。だから昨日の告白は、正真正銘本気の……あの男にとっての賭けだったってことらしいな」

「……知ってたの?」

 自分でも表情が変わるのがわかる。そりゃあ、考えてみれば店のまん前で花束差し出されたりしたわけだから、こいつの人脈から誰かが知らせたってこともあり得なくはない。

 だけど――。