「見たらわかるだろう? お前を待ってたんだよ。ハナコが今日ならオフだって言ってたからな」
一瞬ドキッとしてしまった自分を、次の瞬間非難する。
――何動揺してんの、あたし。そういう意味じゃないなんてこと、そんなことあり得ないってことぐらい、ずっと前から知ってることなのに。
「これ、かをるから。俺は今度会った時でもいいって言ったんだが――こういうものは時期を逃しちゃいけないんだと。あいつはしばらくバイトが忙しくて渡せなさそうだからって頼まれた」
「……そう、どうも」
なんとか平然と階段を上り終え、目の前に立ったあたしに差し出されたもの――それは、可愛いリボンでラッピングされた小さな箱。
『香織さんへ、いつもありがとうございます』と丁寧な筆跡で書かれたカードまでくっ付いていて、これを用意した少女がどれほど真心を込めてくれたか伝わってくる。
「かをるちゃんったら、バレンタインは女が男にあげる日でしょうが」
苦笑して呟いたら、「友達にも言われたらしいがな」と静も笑う。その幸せそうな笑顔につい、意地悪をしたくなった。
「あんたも、変わったわね」
「――ん?」
「随分幸せボケしちゃって。静もオヤジになったってことか」
肘でわき腹の辺りを突いてやると、「オヤジは余計だ」と笑顔が消えた。それでも昔みたいな鋭利な光を浮かべないグレーの瞳は、今の状況に満足していることを言葉以上に語っている。
「で? あんたももらったんでしょ? どんなチョコだった?」
別に興味なんてないはずなのに、なんとなく聞いてみたくなって訊ねる。秘密だ、と堂々と言ってのける元ナンバーワンホストに、あたしはひらひらと手を振った。
一瞬ドキッとしてしまった自分を、次の瞬間非難する。
――何動揺してんの、あたし。そういう意味じゃないなんてこと、そんなことあり得ないってことぐらい、ずっと前から知ってることなのに。
「これ、かをるから。俺は今度会った時でもいいって言ったんだが――こういうものは時期を逃しちゃいけないんだと。あいつはしばらくバイトが忙しくて渡せなさそうだからって頼まれた」
「……そう、どうも」
なんとか平然と階段を上り終え、目の前に立ったあたしに差し出されたもの――それは、可愛いリボンでラッピングされた小さな箱。
『香織さんへ、いつもありがとうございます』と丁寧な筆跡で書かれたカードまでくっ付いていて、これを用意した少女がどれほど真心を込めてくれたか伝わってくる。
「かをるちゃんったら、バレンタインは女が男にあげる日でしょうが」
苦笑して呟いたら、「友達にも言われたらしいがな」と静も笑う。その幸せそうな笑顔につい、意地悪をしたくなった。
「あんたも、変わったわね」
「――ん?」
「随分幸せボケしちゃって。静もオヤジになったってことか」
肘でわき腹の辺りを突いてやると、「オヤジは余計だ」と笑顔が消えた。それでも昔みたいな鋭利な光を浮かべないグレーの瞳は、今の状況に満足していることを言葉以上に語っている。
「で? あんたももらったんでしょ? どんなチョコだった?」
別に興味なんてないはずなのに、なんとなく聞いてみたくなって訊ねる。秘密だ、と堂々と言ってのける元ナンバーワンホストに、あたしはひらひらと手を振った。

