抹茶な風に誘われて。~番外編集~

「あれ、ここ、どこ……?」

 眉を寄せて見渡した先に、思いがけないものを見つけて瞳を見開いた。窓のカーテンレールに引っ掛けられたハンガー。そこに無造作にかかっているのは、男物のジャケット。
 ネクタイまでご丁寧にかけられていて、初めて見覚えがあることがわかった。

「あ、目が覚めましたか? 香織さん」

 心配そうな声が背中からかけられて、ばっと振り返る。遠慮がちな声のトーンと同じくらいに頼りない感じの男が、畳の上に立っていた。

「え――ちょっ……な、なんで?」

 間抜けな言葉しか出てこなかった。思わず自分を見下ろして、ちゃんと昨日の仕事着であるオレンジのスーツを着てることにほっとした。

 ――何やってんの、あたし。こんな男と何かあるわけないじゃない。

 自分でつっこんで、気恥ずかしくなる。けれど酒の勢いというのは怖いもので、こんな状況で朝を迎えたことだってないわけじゃないから。

「なんで、って言われても……一応ここ、僕の部屋でして」

「そ、そんなこたわかってるわよっ。そうじゃなくて、なんであたしがここにいるのかってこと!」

 なぜだか逆ギレ気味に聞き返す。冷静に考えれば予想が付くような流れは、二日酔いの頭には浮かばなかった。

「えっと、香織さんのご友人の、ハナコさん――でしたっけ? あの人が連絡をくれたんです。香織さんが酔いつぶれちゃって困ってるって」

「は、ハナコさん……ですって?」

「ええ。お店で寝かせるには寒すぎるし、香織さんの住所は知らないし、酔いつぶれた香織さんに聞くのは無理だし、って。あの人はああ見えてご家庭があるとかで、自分の家に連れて帰るわけにも行かないからって――申し訳ないって仰ってましたよ?」

 ――あんのお節介オカマオヤジ! 嘘八百並べやがって。

 口汚く脳裏で罵ってみても、既に作られてしまったこの状況を元に戻すわけにはいかない。そんなことぐらいわかっているけれど、罵りたくもなるくらい、ハナコさんの意図はわかりきっていた。