彼女は予想の斜め上を行く

「行こ?葵」

いつの間にか、中島先輩は金本さんの隣にいて手を繋いでいた。

それはものすごく自然で、ものすごく当然な恋人同士の光景。

「ちょっと長野君の前でやめてよ…」

金本さんの言葉なんて気にせず、余裕の笑顔で繋いだまま。

多分、俺と金本さんが手を繋いでいたことを気付いてる。

それでも、この態度ってどんだけ大人なんだ?


「お疲れ。代打男」


その余裕の笑顔のまま、確かに完璧な男はそう言った。

今日1日忘れていた…いや、忘れようとしていた現実を突きつけられた気がした。



金本さんと中島先輩の口喧嘩を思い出す。

『明日だって、あんたじゃなくて長野君と行くわよ!』

口喧嘩の産物である今日という日。

本来なら、俺ではなく先輩がいるべき今日という日。

先輩の言う通り、俺は代打に過ぎないんだ。