黒水晶の影響により、人としての感情を失いつつあるように見えるマイ。
彼女の姿を見て、イサは言った。
「その結果、マイの中に黒水晶を隠すことにしたのか……!?
他に方法は無かったのか!?
黒水晶の力が暴走したら、マイが壊れてしまうかもしれないって考えなかったのか?」
レイルは思い詰めた顔で、
「危険も承知の上で、レイナス様はルミフォンド様の体に黒水晶を封印したんだ。
それ以外の方法は無かったよ……。
黒水晶を目に見える場所に置いておけば、アスタリウス王国は人間から襲撃を受け続ける。
国民は、いつ来るか分からない攻撃に怯えて夜も眠れなかった。
表向き『黒水晶は無くなった·壊れた』のだと言い訳するための材料を作るしか、方法はなかった。
…………お前には信じてもらえないかもしれないけど……。
レイナス様がルミフォンド様への黒水晶封印を決めた決定的な原因は、お前の母親にあるんだ」
「俺の、母さんに……?」
幼い頃、病気で亡くなったイサの母·ルナ。
ヴォルグレイトが世界中の名医に掛け合って手を尽くしても助けられなかったルナの命。
ルナの病は、レイナスが作る魔法薬でしか治せない。
ヴォルグレイトは、レイナスに魔法薬の処方依頼を、再三に渡り申し出た。
しかし、レイナスはかたくなに魔法薬の調合を拒否した。
ルナ本人が、自ら弱った体を引きずりレイナスの元に願い出た時も、彼は一切、うなずかなかった。


