黒水晶


イサを責める気はない。

そう言うように、フェルトはイサの肩を軽く2回ほど叩いた。

レイルはイサの謝罪に何も答えず、難しい顔で黒水晶について話し続けた。

「……黒水晶が狙われるたび、アスタリウスとトルコに住む者は大きな被害を受け、亡くなる人もたくさんいた」

「戦争か……」

イサが反応する。

「ああ。アスタリウスとトルコが綴(つづ)った歴史書を見ると、魔法使いと人間の間では戦争がしょっちゅう起こってたんだ。

魔法使いがいつの時代から存在するのかは分からないけど、人間が生まれる前だと仮定されてる。

魔法使いが世に誕生した黎明(れいめい)期には世界の半数を占めていた魔法使いの人数も、今はルミフォンド様1人しかいないのは、これまで人間がしかけてきた戦のせいだ。


魔法使いには、人間の生み出した科学力をくつがえし、人から努力する精神を奪うほどの能力がある。

だからこそ、魔法使いは戦いを好む種族ではなかった。

遺伝子レベルでそうなってるんだよ。


でも、人間は魔法使いの力を恐れ、利用し、操ろうとした……。

何の力も持たない人間にとって、黒水晶を手に入れることが魔法使いに対抗する唯一の切り札だ、と、勘違いしてたヤツすらいたんだ。


……レイナス様がアスタリウスを統治するようになる少し前、黒水晶の隠し場所について、アスタリウスとトルコの間で、何度も話し合いが行われるようになった」