「このままでいいとは思いませんが、私たち人間には、黒水晶の暴走を止める術がないのです……」
本当はこんなことを口にしたくないと思いつつ、フェルトはそう説明した。
「黒水晶の、暴走……!?」
イサは聞き返す。
フェルトがそれに答えようとした時、フェルトのそばにいたレイルが口をはさんだ。
「黒水晶は、レイナス様が娘のルミフォンド様……現在マイと名乗るあの少女の中に隠したものなんだ。
黒水晶はそこにあるだけで人を幸せにし、大地に自然の恵みをもたらす。
人間が魔術や剣術といった超常的な能力を生み出すよりもっと前の、いにしえの時代から、代々アスタリウス王国に受け継がれてきた宝だ。
俺達トルコ国の人間は、時代が変わってもアスタリウスの国王様に協力し、アスタリウスの家臣達と協力しあって黒水晶を守る役目を担っていた。
どこからか黒水晶の情報を知った人間たちは、黒水晶を狙って何度もアスタリウスとトルコを襲撃してきた……。
アスタリウスには、旅人が出入りすることも多かったから、黒水晶の情報が漏れたとしてもおかしくはないけどな……」
「そうだったのか……。
そういった記述は、ガーデット帝国とルーンティア共和国の発行した歴史書にはなかった……」
イサがそうつぶやくと、レイルは苛立だしげに眉を寄せ、
「そりゃそうだろ……。
人間は、自分にとって都合の悪いこと……国のマイナスイメージになるような歴史はとことん無視して無かったことにしたがるからな」
「すまなかった……。
それすら知らなかった俺も、同罪だ」
『無知』という名の罪。
レイルとフェルトに謝りながら、イサは心の中で今後の世界の在り方を描いた。


