黒水晶


「マイ、頼むから返事をしてくれ!」

今、マイの意識は正常に働いていないのだろうか。

イサが何度呼びかけても彼女は微動だにせず、黒水晶にオーラを吸い取られ続けている。

呼吸をしているはずなのにそれすら忘れた人形のように。


マイは、壊れたぬいぐるみに未練を残した幼子のように、エーテルを横抱きにしている。


黒水晶はマイの頭上に漂っていたが、何らかの備えが完了したとでも言うように、しばらくするとマイのオーラを吸収するのをやめて、突如(とつじょ)ディレットの方に向かってゆっくり飛んでいく。


「黒水晶よ! 我の願望を叶えてくれ」

右の口角をつりあげ、ディレットは不敵な面構えで黒水晶を待ち受ける。

しかし、黒水晶はディレットの思い通りには動かず、それどころか彼を目がけて鋭い稲妻を放った。

黒い球体から、白く光る黄色い雷撃がものすごい勢いで何度も何度も放たれた。

ディレットは持ち前の素早さでそれらを綺麗に避けていたが、疲れを隠せなくなった瞬間、彼の右腕に一発の雷撃が直撃した。


黒水晶はマイの意思によって動かされている。

マイの思い通りにしか動いていない。


「マイ、俺のこと見えてるか!?」

イサはマイに話しかけ続けた。

フェルトはイサの身を心配し、

「イサ、ここは危険です。

何が起こるか分かりません。

離れてください」

「マイをこのままにしておけっていうのか!?

このままじゃ、マイが……!」

イサは声をはりあげ抵抗した。

このままマイを放置したら、彼女の身がどうなるのか分からない……。