黒水晶


もはや城と呼ぶにはふさわしくない、瓦礫(がれき)の山々と化したガーデット城。

その景色を包むように、真っ暗な闇が広がる。

異様な雰囲気を前に、全ての者が身を震わせていた。


テグレンは、そばにいるリンネを抱きしめた。

瓦礫の影にはばまれているせいで、二人はマイの姿を見つけられなかった。


フェルトは防御壁を展開しながらそばにいるレイルを守り、マイを見守る。

彼女のことも守りたかったが、黒水晶の影響なのか、マイに防御魔術をほどこそうとしても、ことごとくはじかれてしまった。


地面を激しく揺さぶる雷鳴。

マイの身に何かが起きたことを察したイサは、警戒心を保ちつつ、もたつく足で彼女の気配がする方に走った。

連戦が体に響き、今にも倒れそうになる不安定な身体。

前かがみの姿勢で自分を支え、黒一色になりつつある空を視界に入れた。

「マイ……!」

息を切らせてたどりついた場所。

イサの目に映ったマイは、彼がよく知る『幼なじみの女の子』とは掛け離れた形相をしていた。

一見、自分の意思で動いているかのように見えるが、マイは何かに操られている。

彼女はすでに、悲憤(ひふん)の化身となっていた。