黒水晶


「そうだ。それでいい」

防御壁を展開しつつ、ディレットは魔術で空を飛び、地上にたたずむマイを見下ろした。

彼の口元には歪んだ笑みが浮かぶ。


エーテルを殺されたことでディレットに対し強い憎しみを覚えたマイは、瞬時に黒水晶を引き寄せた。

『決して怒ってはなりませんよ』

長年、夢の中で自分にそう語りかけてきた女性の声の正体もわかった。

マイの実の母親であり、テグレンの生き別れた娘·エリンのもの……。


エーテルが亡くなったことにより、エーテルの意思でマイにかけられていた記憶封印の魔術も解け、マイの頭にはルミフォンドとして生まれた自分のことや、過去の記憶が蘇った。


「殺してやる……!

エーテルを殺したお前も、ガーデット帝国の人間も!

アスタリウス王国を裏切った者をすべて、この手で苦しめ、滅ぼしてやる!」

それはたしかに、マイがディレットに向けて紡いでいる言葉。

しかし、これまでの彼女からは想像できないほど、憎悪の念が放たれている。

狂気に満ちたマイの目つきは、他者を痛ぶって楽しむ悪魔にとりつかれたかのようだった。

青かった彼女の瞳は毒々しい紫と化し、ゆるく天然パーマがかかったブロンドの髪は蛇のごとく四方八方にうねっていた。