黒水晶


上級魔術師のフェルトは、エーテルの魔術属性を読み取れた。

彼は、魔術師だけでなく、魔法使いの持つ属性をも、個体ごとに見抜くことができる。

エーテルはレベルの高い魔術師だったし、彼女は旅の途中何度か魔術を使っていたので、フェルトはそこから彼女の魔術属性を正確に読み取ることができた。

しかし、マイに関しては違う。

マイは日頃、全属性の魔法を使えるし、オーラを表現せずに済む魔法薬売りを専門としていた。

ゆえにフェルトは、これまでマイの属性をしっかり読み取れなかったし、それどころか、彼女は全属性対応の魔法使いなのだと思い込んでしまっていた。

「マイさん……。いえ、ルミフォンド様は、闇属性を中心に能力を高められる魔法使いだったのですね……。

こうなってようやく気付くなんて、私はまだ未熟者です。

闇属性……。普段明るい彼女には似合わない属性だと思いますが、それだけではなく、きっと……!」

そこでようやく、フェルトはディレットの狙いに気がついた。

マイを怒らせ黒水晶を呼び寄せようとしているということに。


「この雲は何だ!?

初めての感覚が、肌を刺す。

空気も暗く、重たい……!」

イサは戸惑った。

どうしようもなく嫌な予感が胸にせまる。

レイルもディレットへの攻撃をやめて、フェルトの元に駆け寄った。

「フェルトさん! あれ、何なんすか!?」と、真っ暗な上空を指さす。

フェルトは何もかも諦めたように静かな口調で答えた。

「ディレット様の希望が叶ってしまいました……。

エーテルさんを殺されたことでマイさんの心は憎しみに染められました。

マイさんは無意識ですが、その怒りで黒水晶封印の鍵をとき、現在、黒水晶を呼び寄せているのです。

これからどのような事が起きようと、私達にはどうすることもできません」