黒水晶


イサとレイルも、エーテルに訪れた命の終わりを空気の変化で感じ取っていた。


「ディレット様……。もう、容赦しない!」

レイルは脇に転がっていたイサの剣を手にし、涼しい顔をしているディレットに飛び掛かった。

「魔術師のクセに剣を使うなど、邪道の極み。

もはや自身の感情に支配されているのだな。

正面から突っ込むばかりが攻撃ではない」

ディレットは冷静にそう言い、レイルの攻撃をひらりとかわす。

レイルは、氷水をかぶっても冷めないほど激昂(げきこう)していた。


「レイルのようになれたらどれだけいいでしょう……。

こんなにも悲しいのに涙が出ないなんて。

私は“あの時”、人間として当然の感情を何もかも失ってしまったのでしょうか」

いつもはレイルを制する役回りだったフェルトも、今回だけは物憂(ものう)げにつぶやくだけだった。



「……してやる……」

「……!!」

フェルトが、女の低い声を聞き取る。

さきほどまで青く澄んでいた空は炭のように黒い雲に覆われていた。

いや。雲ではなく、闇そのもの。

黒い霧のようなそれは、砂時計の砂が落ちる速さでマイの体から上空に放たれている。

絶え間なく空へ流れ、じょじょに視界を占領する黒。