黒水晶


マイとテグレンは、見守るように二人の方を見ている。

リンネは、日頃出さないような明るい声で、

「誰かが、部屋の鍵を開けてくれたの。

顔は見てないけど、家臣か執事じゃないかしら。

扉越しに言われたんだけど、ヴォルグレイト様の許可が出たんだって。

突然のことに最初は戸惑って、なかなか部屋から抜け出せなかったけど、思い切って出てきてみて本当によかった!

部屋の外って、こんなにも空気が違うのね。

同じ城の中とは思えないもの」

「そうか……」

喜ぶリンネを前に、イサの心臓は嫌な感じで脈打った。

“父さんがリンネに外出許可を出したって?

そんなわけない!!

今までは疑わなかったけど、父さんは何か目的があってリンネを軟禁(なんきん)してたことは間違いない。

そんな父さんが、リンネを解放するわけがない。


リンネを部屋から逃がしたのは、誰だ……?

フェルトか?

それとも、レイル?

彼らは魔術で姿を消して城の偵察をしているくらいだから、そういうことも普通にやってそうだ……。

だとしても、やっぱりおかしい!

もしフェルト達がやったのなら、リンネを部屋から逃がしたって、俺に一言報告してくれるはずだ。

でも、そんな話は聞いてない。

そもそも、あの二人はリンネのことを知らなさそうだったし……”

考えることがたくさんありすぎて、イサはめまいがしそうになる。