黒水晶


「イサ様……。

私は常にヴォルグレイト様のそばにいたのに、あの方を食い止めることが出来ませんでした……。

イサ様の大切なものを、守ることが出来ませんでした……。


本当に、申し訳ありませんでした……」

カーティスも涙を流し、床に伏せたイサの背中を抱きしめる。


空に月が浮かぶ頃。

イサは次第に、冷静さを取り戻していった。

心臓は震えたままだったけれど……。


「カーティスは、悪くない…………。


カーティスのおかげで、俺は剣術の能力を高めることができたんだから。


でも、レイナス様はなぜ、父さんに薬を与えて下さらなかったんだろう……?」

ヴォルグレイトの肩を持つわけではないが、イサも、11年前のレイナスの言動に、違和感を覚えた。

「レイナス様と父さんは、旧知の仲だった。

なのになぜ、レイナス様は、父さんに力をかすのを拒んで、母を見放した?

他の民は助けていたのに、どうして……。


レイナス様の言動の意味が、よくわからない……」

「ええ……。私も、それには同感です。

レイナス様はどのような心境で、ルナ様にだけ魔法薬を処方しないと言い切ったのでしょうか?

レイナス様は、聡明(そうめい)でお優しい方でした。

悪意があっての対応だとは考えられませんが、今となっては、本当のことを知りようがありません……」