黒水晶


エーテルは、イサがルミフォンドに特別な想いを寄せていることを知っていた。

なので、二人を引き離すのがつらかったし、ためらった。

けれど、次の瞬間には、そんなことを言っている場合ではない、と、気持ちを切り替えた。

このままルミフォンドをガーデット城に住まわせていたら、どんなことになるか、目に見えている……。

“ヴォルグレイト様の、悪に染まったオーラ……。

あんなに真っ黒な人の情念、初めて見た……”

ヴォルグレイトの恐ろしさに身震いしながら、エーテルはルミフォンドの元に向かった――――。


ガーデット帝国とルーンティア共和国は友好関係にあるため、エーテルがこの城にいることを不思議に思う人間はいない。

ルミフォンドを逃がすことを考えると、それは大変都合が良かった。


エーテルは、ルミフォンドのいる部屋の扉を小さく開けて、中の様子を伺った。

やはり、ルミフォンドのかたわらには、イサとリンネの姿がある。

“イサを別室に連れ出して、そのすきにルミフォンドを……”

エーテルの胸は激しく痛む。

母親を亡くして傷心だったイサは、ルミフォンドの優しさに癒されていた。

それを奪ったら、イサはどうなってしまうのだろう……?

そう考えたら、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

“けれど、このままではルミフォンドが……”

すでに、アスタリウス王国とトルコ国が犠牲になっている。

“これ以上、ヴォルグレイト様の好きにはさせない……!”