黒水晶


いま、ヴォルグレイトの行いにより、世界中の人々の頭から、アスタリウス王国とトルコ国滅亡の記憶が消えた――。


かつての人間らしい優しさを削ぎ落としたヴォルグレイトの口元は、彼の心を映したようにゆがんでいる。

「これからこの能力を、《妖術(ようじゅつ)》と名付けよう。

禁断剣術と魔法使いの骨によって生まれた術だ。

最高におもしろいではないか…………。

はっはっはっはっ!!」


そばにいたカーティスは、ヴォルグレイトの妖術にかからなかった。

いま出せる全ての力を尽くし、防御剣術を展開していたからだ。

ヴォルグレイトはつまらなさそうな顔で、

「なんだカーティス。

お前にはこの術が効かなかったのか。

……まあいい。

このことを口外しようものなら、お前のことも、アスタリウスの人間達の様に殺してやるだけだ。

私には、不可能なことなどないのだからな……!」

「私は、ヴォルグレイト様の立場を脅(おびや)かすようなことは決していたしません……」

「賢い選択だ。

それでいい」

それは、忠誠心とは違う、別の気持ちから出た言葉だった。

カーティスの頭にあるのは、イサのことだけ……。

ここにはもう、王妃ルナが生きていた頃のヴォルグレイトの姿はない。


高笑いするヴォルグレイトの横でカーティスは、絶望と失望が混じった暗い瞳でつぶやいた。

「国王としては未熟な部分が多々ありましたね……。

ですが私は、公務や戦の指揮をほうり出し、ルナ様のために生きていたあなたが、本当に好きでした。

実の息子のように思っていたのですよ……」


ヴォルグレイトの目に映るのは、征服と支配の二文字だけ。

欲にまみれた彼に、カーティスの想いは届かなかった。