黒水晶


レイナスは、何事もなかったかのように落ち着いた様子で、ガーデット城を出ていった。


おさまりがつかなくなったその場の空気を、カーティスや家臣、執事達が懸命に仕切った。


城の雰囲気は次第に元通りになったが、ヴォルグレイトの五感は周りの様子に無関心だった。

額に流れる汗をそのままに、誰にも聞こえないような小さな声で、つぶやく……。

「絶対に、許さない。

レイナス。お前だけは……」


その日から、ヴォルグレイトの人格は大きく変わったのだった。




ルナの葬儀が終わり、一ヶ月後――。

魔法使いの国·アスタリウス王国は、正体不明の軍勢に滅ぼされた。

その軍勢は、魔法使いの死体を根こそぎ奪っていった。

ゆえに、戦場となったアスタリウス王国の跡地には、いたるところにおびただしい血の跡が飛散していたにも関わらず、死体はひとつも残っていなかった……。


戦争の原因や軍勢の正体を暴くため、近隣のガーデット帝国とルーンティア共和国の調査員がアスタリウス王国の跡地を視察した。

だが、アスタリウス壊滅につながる証拠は、何一つ残ってはいなかった……。