黒水晶


レイナスは無表情のまま小さくため息をつき、ヴォルグレイトの両腕をつかむと、そっと下におろした。

「……『なぜ助けなかったか』って?

それはな……。

ルナ様は、助ける価値のない者だったからだ」

音も立てず、レイナスは静かな足取りでその場を立ち去ろうとした。

ヴォルグレイトは腰に掛けていた剣を鞘(さや)から引き抜き、レイナスの背中目がけ、勢いよく振り上げた。

「お前が!!

弱ってる者を見捨てるようなやつが、ルナの価値を語るな!!」

レイナスの鋭い反射神経は、魔法防御の壁を一瞬で展開させる。

渾身(こんしん)の力を振りしぼって放ったヴォルグレイトの剣術は、ことごとくかわされてしまった。

数分間、空振りながらも攻撃を続けたが、圧倒的にヴォルグレイトの方が不利だった。

魔法防御にも気力と体力を消耗するのに、レイナスは息ひとつ切らしていない。

一方、ヴォルグレイトは、10分も経たないうちに息切れし、床に片ヒザをついた。

精神力が低下している上に睡眠不足も重なって、これでは、アスタリウスを統治する最上級魔法使いに傷ひとつつけられないのも仕方がなかった。


「しょせん、剣術師はただの人間。

我々魔法使いの能力を超えることなど、出来やしないのだよ」

最後、レイナスの雷魔法で剣を後方に弾き飛ばされたヴォルグレイトは、戦意を失い、その場に倒れ込む。


二人の争いで葬儀会場のフロアはざわつき、カーティスや城の兵士、レイナスの付き人が飛んできた。

「ヴォルグレイト様!

レイナス様とやり合うなんて、一体どうしたことですか!!」

カーティスもさすがに声を荒げ、取り乱している。