黒水晶


生まれながらに短命宣言されていたルナ。

昔から、心のどこかで、この瞬間が来ることを覚悟していた。

……そのはずなのに、ヴォルグレイトはルナの死を受け入れられなかった。


「逝(い)かないでくれ、ルナ……!!」

ヴォルグレイトの叫び声。

悲しみに満ちた彼の声を耳にしたカーティスは、廊下から室内に飛び込んできた。

カーティスだけではなく、手のあいた家臣達は、部屋の外でヴォルグレイトとルナのことを心配していた。


「ヴォルグレイト様……!」

ルナが亡くなったことは、誰の目から見ても分かった。

カーティスは、泣き崩れるヴォルグレイトの背中をさすった。

そういったカーティスの優しさすらも、ヴォルグレイトにとっては痛みに感じられる……。

身を粉々にちぎられるような痛みが、彼の心を蝕(むしば)む。


「………………っ。

ルナ…………。

お願いだ、目を……開けてくれ……」


“死なせたくなかった。

死なせたくなかった……。

年老い、大地の土となる日まで、ルナと添(そ)いとげたかった”


事切れたルナの上半身を起こすと両腕に抱き、ヴォルグレイトは叫んだ。

「なんで……!!

どうしてルナが、死ななきゃならないんだ!!

……この世に神はいないのか!?

天はなぜ、生きたい者をまざまざと見捨てるんだ!!」


カーティスや家臣達はヴォルグレイトを心配したが、彼らの声はヴォルグレイトの耳を素通りした。

誰の声も届かない……。

ヴォルグレイトの目に映るのは、残酷な死の瞬間と、冷たい現実だけだった。