黒水晶


アスタリウス城。

謁見の間で、ヴォルグレイトとレイナスは二人きりで話をした。


結果から言うと、ヴォルグレイトの願いは通じなかった。

レイナスの返答は、前と変わらなかったのである。


「レイナス、なぜだ!?

こんなことは言いたくないが……。

私がお前に魔法薬の調合を頼みに行った後、こんな話を耳にした。

他の…ルナ以外の人間が病で死にかけていた時、お前はその者の命を、魔法薬で救ったそうじゃないか……!!」

「ああ。その情報は正しいよ。

君がそう言いたくなる気持ちも、理解できる」

ヴォルグレイトの唇は震えていた。

「今一度、問う。

お前は、ルナのことが嫌いなのか……?

見殺しにしても胸が痛まないほど、憎いとでもいうのか!?

それとも、口にできない私へのうらみが、何かしらあるというのか?」

「…………」

「答えてくれ、レイナス……!

私が納得できる答えを、お前の言葉で教えてくれないか!?」

ヴォルグレイトは涙を流してそう叫び、レイナスを見る。

ヴォルグレイトの高ぶった感情につられることなく、レイナスは相変わらず冷静な表情で、

「ルナ王妃が憎いわけではないし、君にうらみや嫌悪感といった感情を抱いたことはない。

ただ、それとこれとは、また別の話……。

彼女の命を救うために魔法薬を作ることは、出来ない。


何度頼まれてもこの意思は変えるつもりはないし、対価を出されても引き受けるつもりはない」

「………………」


ヴォルグレイトはレイナスの冷たさに失望した。

幼なじみのレイナス。

王族の血筋に生まれたせいで互いに敵の多い人生を歩んできたが、それゆえに二人は分かり合える関係だった。

少なくともヴォルグレイトはそう思っていた。

唯一気を許せる友であり、誰よりも尊敬できる魔法使い。

でももう、今は彼のことを仲間だとは思えないし、幼なじみであることすら否定したくなった。


ヴォルグレイトは息苦しさを感じ、それ以上レイナスにかける言葉を見つけられなかった。

ショックで胸を圧迫されるようで。

レイナスに背を向けると、ヴォルグレイトは無言でアスタリウス城を後にした。


体重の数倍ある鉄の足枷(あしかせ)を付けたように重たい足取りでガーデット城に戻ると、カーティスが駆け寄ってきた。