黒水晶


それ以来、ヴォルグレイトはアスタリウス城に出向くことはなかった。

彼は投じうる私財(しざい)を尽くし、ルナの命を救うために世界中を駆け回った。

著名(ちょめい)な医師を訪ねて回り、土下座してルナの治療を依頼した。


ルナの病は、当時の乏しい医療レベルでは治る見込みがなかったため、ヴォルグレイトに頭を下げられた医師達は渋い顔で嫌々ルナの治療を引き受けていたが、ヴォルグレイトは治療の成功を心から祈っていた。


有名で腕のいい医師ほど請求してくる治療費は高額で、そのうえ何人もの医師にルナを診てもらっていたため、出費はかさんだ。

それでも、ガーデット帝国の財力は維持でき、金銭的には痛くもかゆくもなかったが、ヴォルグレイトは焦っていた。

金がなくなっていくスピードと、ルナの病の進行具合が、比例していたからだ……。


医師がどんなに手を尽くしても、治らない病………。


『いつ亡くなってもおかしくない』と医師に告げられて以来、ヴォルグレイトはルナにつきっきりになる。

彼の代わりにカーティスが戦に出て、兵士達の指揮を取った。


そんな日々は、半年ほど続いた。


ヴォルグレイトの願いとは裏腹に、ルナはだんだんやつれていき、会話もできないほど体力を失っていた。

ヴォルグレイトは、一生懸命ルナの看病をする。

面白い書物を読み聞かせたり、リラクゼーションミュージックを室内に流したり……。


幼さゆえに、イサは母の病状についてあまり知らされておらず、ルミフォンドやリンネと遊んでいたので、手がかからなかった。


“科学医療じゃ、もうルナはもたない……。

再度、レイナスに頼んでみよう…!”

ルナの死期が、間近に迫っている。

追いつめられたヴォルグレイトは、再びアスタリウス城に足を運んだ――。