黒水晶


それを聞いて、ヴォルグレイトは濡れた瞳に希望の光を浮かばせた。

「それなら、お願いだ!

ルナを助けてくれ!

そのためなら、私はなんだってする!!」

勢い良く立ち上がり、ヴォルグレイトは玉座に座るレイナスの両腕を強い力でつかんだ。

されるがまま抵抗せず、レイナスはヴォルグレイトの頼みを一蹴(いっしゅう)した。

「その熱意は評価するけれど、ルナ王妃のために魔法薬は作れない。

たとえ、君がその命を私に差し出すと言ってもね。

彼女は、死にゆく運命なんだよ……」

冷たくそう言い放つレイナスに、ヴォルグレイトの怒りは爆発した。

「わかった!!

もう、お前には頼まない!!」

興奮に乗せてそう言い捨てると、ヴォルグレイトは謁見(えっけん)の間を後にした。


途中、出口に向かう通路を通ると、窓ガラス越しに中庭が見えた。

緑に囲まれた噴水の周りで、イサがレイナスの娘達と遊んでいる。


レイナスとエリンの間に生まれた、双子の娘……。

姉の名前はルミフォンド。

妹の名は、リンネ。

彼女達は、イサと同じ3歳になる。


キャッキャと楽しげな声をあげる幼子3人の様子を見て、ヴォルグレイトは面白くない気持ちになる。

苛立ちを飲み込むべく子供達の姿を眺めていたが、しばらくそうしていても、不満は消えなかった。

代わりに、対抗心に似た強い決意がヴォルグレイトを動かした。

“レイナス。見損なったぞ……。

あんなに冷たいヤツだったなんて……。

こうなれば、何がなんでも、科学医療の力でルナの命を救ってみせる……!!”