ヴォルグレイトは床に座り込み、泣いている……。
エリンと、双子の娘達にこの場を離れるよう指示した後、レイナスはヴォルグレイトに言った。
「妻を想う君の気持ちも分からなくはないが、何を言われても、ルナ王妃に魔法薬を渡すわけにはいかない。
それに、王族の君が、そんな簡単に地位を捨てるような言葉を口にするのは感心できないな。
君が国を手放したら、ガーデット帝国は、イサは、家臣は、執事は、どうなる?
今、様々な敵勢力から一生懸命、君の国を守ってくれている兵士達や君の行為全てが、無駄になる。
君を信じる数億人の民だっているのに。
国王として、君の発言は無責任過ぎる……」
感情のままに口を開くヴォルグレイトと違い、端正な面持ちをした若き青年·レイナスは、極めて冷静だった。
レイナスと同世代のヴォルグレイトは、涙で頬を濡らしながら、それを拭うことなく頼み続けた。
「わかってる、そんなこと……!
私は国王だ。
イサの父親であり、家臣や執事、国民達の生活も背負っている、大事な立場なんだって……。
でも………。
それら全てを失くしてしまうのだとしても、私はルナを助けたいんだ……!
金も、地位も、名声も、ルナの存在とは比べものにならないほど小さく見える。
どうだっていいんだよ、そんなもの……!
本当なら、公務や戦などせず、一日中ルナのそばにいたいんだ……。
王族の血筋に生まれてこなければ、そうできたはずだ。
今よりもっと、自由に生きられたのに……!」
「……ヴォルグレイト…………。
もし君が生まれながらに一般市民だったとしたら、ルナ王妃と結婚はできなかったよ。
彼女は、上流階級の貴族の娘。
一般市民と会話することすらままならない環境にいたのだから。
……馬鹿げた夢物語は、しょせん現実逃避に過ぎない」
「ああ、分かっているとも!
だがな、そう考えてしまうんだ……!
レイナス!! お前ほど実力のある魔法使いなら、ルナの病を完治させられる魔法薬を作ることも可能だろう!?」
「ああ。可能だよ」
レイナスは抑揚(よくよう)のない声でヴォルグレイトを見つめた。
無表情ゆえに、レイナスが何を考えているのか読み取れない。
ヴォルグレイトの目に、レイナスの顔は冷ややかに映った。


