黒水晶


そんな大病を患っているにも関わらず、ルナはたびたびベッドを抜け出し、部屋から居なくなることがあった。

ヴォルグレイトや兵士達が、戦で城から出払っている間を狙って、彼女は自室を抜け出していたのだ。

ルナの行動は、そのうちヴォルグレイトも知ることになる。

ヴォルグレイトは、自分より遅く帰宅したルナにものすごい形相で駆け寄り、

「ルナ! 大丈夫か!?

部屋に行ったらお前の姿がなくて、みんなで探していたんだぞ。

そんな体で、どこへ行っていたんだ!」

「心配かけて、本当にごめんなさい……。

アスタリウスに行っていたの」


魔法使い(魔女)だけで統治された国·アスタリウス王国。

アスタリウス王国は、ガーデット帝国に隣接しており、国境がわかりづらいほど、自然な形で同じ敷地内に存在していた。

アスタリウス城へは、ガーデット城から徒歩5分で行ける。


「アスタリウスに行っていたのか……。

魔法薬が欲しいのか?

それなら、私に言ってくれれば、いくらでも買ってきたのに……。

そんな体で行くなんて、ダメだろう……!」

ヴォルグレイトは優しい口調でルナをたしなめた。

ルナはうつむき、

「それが……。

魔法薬は、もらえなかったの……」

「なんだって!?」

ヴォルグレイトが驚くのも、無理はなかった。

当時、交友関係にあったガーデット帝国とアスタリウス王国。

困った時は互いに助け合い、目的のためには何でも協力しあう関係だった。

ゆえに、ガーデット帝国の者が大きな病を患ってしまった場合も、アスタリウスの国王は、いつでも快く魔法薬を分けてくれていた。