黒水晶


ルナは、精神的疲労でやつれていくヴォルグレイトの手をそっと両手で包み、彼を励ました。

「あなたは、国王なの。

ガーデット帝国だけは、何があっても守らなくてはいけないわ。


あなたならできる。

争いのない、誰もが明るい気持ちで暮らせる、平和な国作りが……」

「そうだよな……。

そのために俺は、ガーデット帝国の国王として生まれてきたんだものな。


最近戦いが続いていたせいで、少々弱気になっていた。

情けないところを見せてすまない……」

ルナは柔らかく微笑む。

「いいのよ。

だって私は、あなたの妻なんですから。

国王を支えるのが、王妃である私のつとめ」

ルナの穏やかな表情に、ヴォルグレイトは救われていた。


できれば世界を変えたい。

争いなど起こらない、誰も悲しむことのない、楽しく、幸せの溢れた世の中にしたい。

たとえそれが無理でも、自分が統治しているガーデット帝国だけは、絶対、最後まで守り抜きたいと、ヴォルグレイトは思った。

可愛い息子·イサのため。

そして、愛するルナのために…………。


――――そんな風に月日は流れ、イサが3歳になった頃。

ルナが、今まででもっとも重たい大病を患(わずら)い、何週間も床に伏せるようになった。