黒水晶


結婚後、ほどなくして、ルナはイサを授かった。

イサが生まれると、二人は彼を大切に育てた。

ルナはイサに母乳を飲ませ、微笑む。

「この子も将来、あなたみたいに立派な国王になるといいな」

「ははは、そうだな。

でも、国王になれたとして、ルナみたいに素敵な王妃を迎えられるかな?」

ヴォルグレイトは、ノロケ半分でそんな冗談を言った。


3歳になるまで、イサは二人に育てられた。

ヴォルグレイトが城を空けなければならない時はカーティスにも面倒を見てもらい、イサはすくすく元気に育っていった。


だが、そんな穏やかな日ばかりではなかった。


イサが物心つく頃。

ガーデット帝国は、外国からたびたび争いを挑まれることがあった。

それはもう、昔からの話だった。

他国の無力な人間達は、すきあらば、ガーデット帝国独自の剣術や、ガーデット城の王室にしか伝わっていない秘伝の剣術を掠(かす)め取ろうとしていたのだ。

ガーデット帝国は、昔から幾度となく没落の危機にひんしていたので、その経験を糧(かて)として、防衛策に関しては世界一の能力を誇っていたので、幸い国の財産には手をつけられずに済んだが、死者が出るのを止めることはできなかった。


幼いイサと体の弱いルナを守るため、日々戦いに明け暮れるヴォルグレイト。

「くそ……。なぜ、戦争なんてしなきゃならないんだ」

ヴォルグレイトの怒りは、日毎に増した。

相手を独占し、邪魔者を排除しようとする敵勢力の、横暴さ。

無力な民達を人質にされ、あげくのはてには罪のない人々の命を刈り取られ、気が狂いそうになった。

なるべく仕事のグチは家庭に持ち込みたくない。

そんなヴォルグレイトも、夜になると、ルナにこうこぼすようになった。

「自分の領地を広めたいという欲望だけで、なぜああも簡単に人を殺すことが出来るんだ……。

私には分からない。

分かりたくもない」

「本当ね……。

人はなぜ、あやまちを繰り返し、己の欲望にのまれて他人を支配しようとしてしまうのでしょうね……」

ルナも悲しげに目を伏せる。