黒水晶


周りから見たら、ヴォルグレイトとルナの婚約は、政略結婚そのものである。

実際、二人は、互いの家の利益のために婚約させられていたのだ。

しかし、ヴォルグレイトとルナにはそんな気持ちなど全くなく、幼なじみの二人は、物心つく頃にはすでに想い合っていた。


ヴォルグレイトと娘を結婚させ、ガーデット帝国の利益を得ようとする王族は、ルナの生まれた伯爵家以外にも多く存在していたが、当のヴォルグレイトは、ルナ以外の女性を王妃として迎える気がなかった。

当然のことながら、ヴォルグレイトの発言権は強く、地位の高い王族でも逆らうことはできない。

現に、ルナが亡くなった後からこれまで、ヴォルグレイトは次の王妃を迎えていない。

今までに何度か、家臣達から見合いを勧められていたが、ヴォルグレイトはルナのことを想い続けており、他の出会いを求める気などさらさらなかった。


体の弱かったルナは、生まれてすぐに短命宣言をされていた身。

ヴォルグレイトと婚姻関係を結ぶ直前まで、病弱なのを理由に、ガーデット帝国側の人間に、結婚を反対されていた。

ヴォルグレイトはそんなもの気にせず、先代や周りの反対を押し切ってルナと結婚し、彼女を一生守りぬくと誓った。

自分より先にルナが死んでしまうかもしれない、

そう理解した上で……。