黒水晶


グレンのフォローをするつもりは全くないが、マイはひととおり、イサに事情を説明した。

結局マイは、杖の力を使ってグレンに生きる力を与えたのだ。

水の守り神·アルフレドを救った時のように。

グレンもそれで納得してくれた。

そこへちょうど、イサが訪れたということだ。


マイの話に納得したイサは、ホッとして肩の力を抜き、それと同時に、この世界の異変をよりリアルに感じ、頭が痛くなりそうだった。

“これも全て、父さんの…ヴォルグレイト国王のせいだっていうのか……?”


深刻なイサの雰囲気にかまうことなく、グレンはイサに耳打ちした。

「あんた、マイの彼氏なの?」

「は!?」

難しい考え事を中断せざるを得ないことを訊(き)かれ、イサは顔を真っ赤にした。

一方マイは、二人の会話を気にすることなく、今度は森のキノコを取りはじめていた。

マイはイサ達から離れた数メートル先でしゃがみ込み、こちらに背を向け、木の生え際を丹念に探っている。

彼女を悲しげな目で見つめ、イサは言った。

「俺は、そんなんじゃない……。

マイの護衛をしてた。それだけだ」

「へー。そーなんだ。

マイってキツそうな魔女だけど、イサにだけは柔らかい表情するから、てっきりそうなのかと思ったー」

相変わらず軽い口調のグレン。

イサは、誰に言うでもなくつぶやいた。

「たとえ好きだとしても、俺には……。

俺には、マイの恋人になる資格なんかない……」

グレンはイサの言葉に目を丸くし、

「何を悩んでんのか知らねーけど、お前、マイのこと好きなんだろ?

だったら素直になれば?」

「そんなことない!」

「隠してるつもりかもしんねーけど、バレバレだっつーの。

好きなら当たって砕けりゃいーじゃん」

「ははは、そうだな……」

イサは力なく笑った。

“そんなことしたら……。

この気持ちをマイに伝えたら、本当に砕けてしまう。

俺じゃなく、マイがな……”