黒水晶


城を飛び出し、カーティスの助言を無視したイサは、マイがいると思われる森に向かって走った。

城下街を出ると、草原を縫うように森までの道が続いている。

人がよく通る道なので、脇に草が生い茂っていても比較的歩きやすかった。


全速力で走り抜け、木漏れ日の優しい森に到着する。

少し進んだ先で、イサは目を見開いた。

マイと話しているのは、赤い衣服の少年。

「あれは…! 炎の守り神、グレン!!

マイの杖を狙いに来たのか!?」

イサの視線に気付かず、二人は話し込んでいる。

グレンからは殺気など感じられないが、この状況に、イサの気は立っていた。


「マイ! 大丈夫か!?

グレン、その子から離れろ!」

イサの強い口調に、マイとグレンは驚いていた。

「イサ……! どうしてここに?」

「テグレンが心配してたぞ。

急に部屋からいなくなるから……」

「ごめんね。木の実を取ったら、すぐに戻るつもりだったの」

「そうか。ならいいんだ。

よかった、無事で……」

マイの様子が普通だったので、イサはようやく冷静になれた。

久しぶりにこうしてイサと話せたので、マイの気持ちは一気に浮上する。

イサの口調や表情も、優しいものに感じた。


グレンは、そんな二人を面白そうに見つめ、

「へー。お前、剣術師なんだね。

俺に負けないくらい、いい筋肉してんのな。

ちょっと悔しいぜ」

イサはグレンの言葉に顔をしかめ、

「……ふざけるな。

お前、マイが一人きりのところを狙うなんて、どういうつもりだ?

場合によっては、容赦(ようしゃ)しない」

グレンはオーバーに怖がるフリをし、

「こえーな。剣術師には、やっぱり熱血漢が多いの?

用ならもう済んだから、そんなピリピリすんなよなっ」

グレンはとことん涼しい顔。

マイペースな神である。