黒水晶



一方マイは、自分がいなくなったことでイサ達を動揺させているとは思わず、森でたくさんの木の実を取り終え、満足そうな笑顔を浮かべていた。

「ちょっと取りすぎたかな?

でも、城にはたくさんの人がいるし、エーテルの国の人達にも薬を作ってあげたいし、ちょうどいいよねっ」

自分で自分を納得させ、城へ空間転移しようとしたその時。

真っ赤な熱い影がマイをおおった。

“何!? この、焼けるような熱風は……!”

ここは森の中。

ほとんど日差しも届かないし、木陰が多く涼しいくらいだ。

なのに、間近に太陽があるのではと思ってしまうくらい、空気が暑い。

身の危険を感じてマイが後ろを振り返ると、そこには、一人の少年が立っていた。

彼は、マイと同い年くらいだろうか。

鋭い目つきをしたワイルドな雰囲気。

さらした腕はほどよく日焼けしており、たくましさを強調するかのように筋肉がついている。

それでいて、ごつくはなくスレンダーな体型。

露出(ろしゅつ)の多い真っ赤な衣装を身にまとった彼はクスリと笑い、

「ラッキー。魔女見ーっけ。

魔女の血があれば、俺の命も消えないし。

しかも、見たところあんたは一人みたいだ」

「あなた、誰??」

マイは、一歩後ずさる。


その少年は、とても悪人には見えない外見をしているし気さくな口調なのに、言っていることは非常に危ない。


「えー! 俺の名前知らないの?

グレンっつーんだけどさ」

「グレン……?

初めて聞いたよ」

「マジでー?? ちょっとショックかもー!

これでも一応、炎の守り神だったりするのにー」


グレンの言うことを半信半疑で聞きながら、マイは以前出会った水の守り神·アルフレドのことを思い出していた。


「もしかして……。

グレンも、私の杖を狙ってここへ来たの?」

「『俺も』ってことは、他の神に先越されちゃった感じー?

あーあ、俺が一番だと思ってたのにー」

グレンはかったるそうに、なげく。