黒水晶


テグレンは、思い詰めた表情をするイサを心配した。

「イサ……。あんたも、立場上いろいろあるのかもしれないけどさ、一人で考え込むのだけはよしなよ?

私なんかでよけりゃ、いつでも話し相手になるからね。

これでも口は固いんだ」

「……ありがとう、テグレン。

いまは、気持ちだけ受け取っておく」

「あはは。イサらしいね。

マイのこと、よろしく頼むよ」

「ああ、任せてくれ」


凛々(りり)しい表情で、イサは城の通路を走り抜けた。

剣術の力は、敵を攻撃する時だけでなく、防御(ぼうぎょ)もかねて、探したい者の気配を察知することができる。

それを使い、イサはマイの気配を感じ取った。

“……森にいるのか?”

森へ向かうべく、イサが城下街の通路を通り抜けようとした時、買い出しのため街に出ていたカーティスと出くわした。

「イサ様、そんなに急いで、どちらへ?」

「城周辺の、魔物退治に。

ヒマだから」

「それでしたら、今は常勤の兵士達が行っていますよ。

イサ様はまだ、公務が残っているのでは?」

「それはもう済んだ。じゃあな」

本当のところ、公務はまだ残っていたが、カーティスには嘘をつき、イサはその場を後にした。


最近、自然オーラのバランスがおかしくなっているせいで、危険な自然現象も起きやすい。

巨大竜巻に飲み込まれて骨折したり、氷の雨が降り注いで体や家を傷つけられたり…といった被害が、世界各地から報告されている。


カーティスは、遠ざかるイサに向けて叫んだ。

「今は、いつ異常事態に巻き込まれてもおかしくありません。

魔物退治ならば、他の兵士も呼びましょう!」

「必要ない!

軽い運動みたいなものだ。

サクッと終わらせてすぐに戻る!」

心配するカーティスを振り切り、イサはマイのいる森まで全速力で走った。