「はい。かなり前に突然姿を消してしまって…てっきり、もう昇っていたものかと思っていたんですが……」

「また、現れたと?」

言乃は目を伏せた。
彼女の言う“昇る”とは霊が昇天すること、つまりは成仏だ。

「確証はありません。あの人の名を、誰かが騙っているだけかもしれない。
でも、胸騒ぎが止まらないんです」

「…そうか」


雅は、静かにお茶をすする。
少しの間お茶の水面を見つめていたが、口を開いた。

「昔に話したことがあったね。私たちのように力を持つ者は、霊に狙われやすい人間だと」

「はい」



体質の関係で、霊から見れば一際美味そうに見える人間がいる。
狙われやすいからこそ、抵抗するために力を持つことになった。

しかし、それは他の人間より上という訳ではなく、むしろ逆。

霊に対する免疫が他人より薄いから、見えてしまうし聞こえてしまう。
弱いから戦う力を持つだけで、そこに幽霊がいても意に介さない人間よりも劣るのだと。


――だから、力を振りかざすこともひけらかすことも許されない。