やがて、くすっとどちからからともなく笑いだす。
「ううん、私たちは何もしてないよ」
【ええ。乗り越えたのは黒羽くんの力です。おめでとうございます】
「へへ、そんな風に言うんじゃねえよ」
単純。褒められて身をくねらせる二十歳の男。
ただし、そこで気づいたことは小さいことでも、何年も何年も枷となり引っかかってきたものだ。
その重石から解放された喜びはきっと、二人には知るはずもないほど大きい。
さて、とスーツを直すと黒羽は言乃と恵に向きなおった。
「俺は上にもう活躍してる兄貴たちがいたから、嫉妬もしたし同時に憧れも持ってる。そんんでもって、絶対に越えられない壁だから、嫌になったりもする。でも俺はそれだけ。認めてもらった今となっては、兄貴たちと全部同じじゃなくていい。
俺は兄貴のコピーにはなれないし、なりたくはないから。俺にとって、兄弟は一番身近で、勝てることの少ない最悪のライバルってとこだな」
そう語る男は、烏山三兄弟の三男坊ではない。一人の烏山黒羽として、一人前になっていた。
言乃は素早く黒羽の言葉を携帯のメモ機能に保存すると、黒羽に頭を下げた。
【ありがとうございました、黒羽くん。ずいぶん参考になりました】
「役に立てたなら、それでいいぜ。んじゃあ、俺はまだこれからまた戻らないと」
「うん、ありがとうね!」
手を振り頭を下げ、運転席に乗った黒羽はそれらに軽くこたえて駐車場を去って行った。
車が見えなくなって、恵は言乃を向いた。
「よし、じゃあ次はどうしようか」
【ちょうどよく、呼び出しがかかったみたいですよ?】
にっこりとして言乃が見せた画面は、メールの受信画面。
差出人は、朋恵だった。


