泡沫眼角-ウタカタメカド-


「俺は、兄貴たちのことをすごいと思ってる。仕事もちゃんとこなして、周りに信頼もされてる。俺なんかまだまだひよっこ扱いで、それでむくれた時期もあった。というか、最近まであったよ」

言葉が過去形だ。
それを促すように言乃は言葉よりも首を傾げて、恵はそのままに疑問の意を示す。
一度、息を吸い込んで黒羽は再び口を開く。

「今回のお前らのことだよ。俺なんかが奥方様に会いたいって言ってる人間がいるから会ってもらえないかって頼み込んでもダメだと思ってたんだ。それで一回、兄貴に言伝を頼んだんだ。そしたら、それくらい自分でやれよって…まあ、当然なんだけどな」

目線を下においたままの黒羽の表情が、わずかに緩む。
嬉しげに、誇らしげに。

「それで、俺から頼みに言ったんだけどな、奥方様はすんなり会うって言ってくれたんだ。それも『お前の紹介で、ぜひというのなら』って言ってくれて、さ」

「よかったじゃん! 黒羽くん」

「ああ! それを思わず兄貴に言ったら、『そりゃそうだ。お前だって信頼されてるんだからな』って…俺、柄にもなく嬉しくってさ」


話す黒羽の顔には今までと異なる赤みが差していて、目の周りを隠すように顔を背けて。
鼻だか息だか。すすってこちらを向く黒羽は晴れやかだった。


「俺が今までなんとも悩んでたのはちっぽけなことだったんだなって思えるようになったんだ。
上が出来る兄貴だと、俺も同じ年になれば全部マスターできるもんだと思ってたのに、なんで俺は出来ないんだろう、とか。俺ももう仕事ができるのに任されないのは何でだろうとか、悶々としてたけどそんなん気にする必要はなかったんだって。
感謝するぜ! お前らありがとな!」

言乃と恵はびっくりして顔を見合わせた。
二人は面倒事に黒羽を巻き込んでしまっただけで、お礼を言われるようなことは何一つやってはいない。
それなのに、こんな晴れやかにお礼を言われてしまうなんて。